地下7階。
前編の続きです。そちらからお読みになることをオススメします。
前回に引き続き、フウカたちの設定を知らないと茶番の意味が分からない面がありそうです。
というか今回の茶番はもはや『直下の戦線』連載の外伝のようなものになっています。
『直下の戦線』の連載記事を読んでもらうか、キャラ設定記事を読んで貰った方がいいと思います。
シナリオの詳細はその1をご参照ください。
*おしらせ*
・マッピングツールは「方眼紙マッピング」を使用。
・アイコンはいろいろカスタムしています。
・呪文名はいわゆる「トゥルーワード」に変更は *しません*
・プレイしながら記録していたメモをほぼそのまま載せてます。
・ネタバレに対する配慮はありません。
地下7階――「万魔殿」
いよいよ万魔殿の中心部に突入する。
入り口のすぐ横には回復の泉が完備されているようだ。この先には想像を超えた何かが待ち受けていることだろう。
脚を踏み入れた途端、フウカが顔をしかめる。
――部屋の中はどこかから聞こえてくる大勢の声で埋め尽くされていた。まるで雑踏の中に居るようだ。
声は段々大きくなってきた。無数の叫び声が部屋中を埋め尽くしている。頭が割れそうに痛い!
「大丈夫か、フウカ!」
アキの一喝ではっと顔を上げたフウカ。先ほどまで感じていた頭痛は消え、無数の叫び声も聞こえなくなっていた。
「う、うん。大丈夫だよ」
「――ククク、偽りの聖なる鎧に身を包んだ穢れし罪人がやってきたな」
「……!?」
部屋の中に突如声が響く!
全員が部屋の奥の方を向く。謎の祭壇から闇の魔力が溢れ出すのが見えた!
「我は原罪を裁く者……。亡者よ、その罪の深さを知るがよい……。
神の力であってもその罪は決して浄化できるものではない」
「神の力……?」
フウカが聞き慣れない言葉に動揺するが、それどころじゃないと気を引き締める。
「どれほど強大な力をもってねじ伏せようとしたところで、この世界はお前を拒んでいるのだ……。
清らかな世界がお前の穢れた魂のせいで穢れていく……消え失せるがいい!」
溢れ出た魔力が形を成す!
現れた黄金の邪神が襲いかかってきた!
*** パンデモニウム ***とナイチンゲールと戦闘!
言うまでもなく即死ブレス持ちのナイチンゲールを先に対処。フウカはギガアーマー、ユマとナオはひたすらマジックスクリーン。
なんとかナイチンゲールを倒した。パンデモニウムは打撃に睡眠と毒の効果が付いているくらい……だが、異常なほど硬い!
トータルテラーも数回入れて味方の打撃がフルヒットする状況になっているにもかかわらず、一向に倒れる気配がない。
暇な呪文使いがギガシールドやギガアーマーなどの呪文を唱え続けていたが、ACが-40前後になったあたりでようやく倒れた。
……あとでモンスター図鑑を見るとHPはなんと948~1488、しかも毎ターン10の自動回復つき。異常な固さだった。
「罪を知ることも出来ず永遠に彷徨う者よ……。
お前は既に魔界の住人……。闇よりも深い闇がお前の姿ぞ……。
お前が捨ててきたあらゆるものが、お前を許していたというのに……。
ククク……人ならぬ恐ろしい化け物よ……」
そういって黒い炎に包まれ、パンデモニウムは消えていった。
「これで、終わり?」
祭壇の後ろには万華鏡が落ちていた。「雪のカレイドスコープ」だ。
「アイツはなんだったんだ……」
「原罪を裁く悪魔……といったところかしらね」
アキとユマが考察を繰り広げている。マナカがEJを起動し、この階層の地図を表示した。
「もうこれで全部だ。これより下の階層はなさそうだね」
「よし。とりあえず、帰ろうか」
カナヤが応じ、ナオが「転移の巻物」を起動しようとした。
しかし、フウカが動こうとしない。
「――フウカさん?」
フウカはふと、雪の万華鏡を覗いてみた。
さらさらと雪が降っている。それはあの日、珍しく降った雪を思い出させる。
再びフウカを記憶の世界に連れて行く――
フウカの記憶
その日、数年に1度しか降らない雪が街中に積もっていた。
吹奏楽部の練習が終わり、ふたりの女子生徒が下校路を歩いていた。
「おっとっと……滑って転んじゃいそうですね」
菜緖がえへへ、と笑いながら雪を踏みしめて遊んでいる。
「気を付けてよ。転ぶと雪まみれになっちゃう」
風香が笑いながら菜緖の手を握る。
そんな彼女も、滅多に降らない雪を楽しんでいるのだった。
ふたりは珍しい風景を楽しみつつ、帰路を歩んでいる。
突然、菜緖が駆け出した。
「見てください! 雪だるまがありますよ!」
民家の前の歩道に作られている、子供が作ったと思しき雪だるまを指差して、菜緖が満面の笑みを浮かべている。
「やれやれ……」
風香が苦笑しながら菜緖のところまで行こうと脚を踏み出したそのとき。
後ろから何かが滑るような音が聞こえた。
「え……?」
暴走した大型のトラックがスリップしながら風香の横をすり抜ける。
ブレーキが効かないトラックは、甲高いスリップ音を立てながら歩道に乗り上げ、民家の塀に向かって突進していった。
やがてトラックは塀をなぎ倒して停止した。
菜緖が立っていた場所には、ひしゃげて潰れたトラックの運転席があるだけだった。
「菜緖……?」
――普段雪が降らない地域で、路面凍結対策を怠っていたトラックによる人身事故。
運転手も死亡し、個人経営でかつ孤独の身であったため、誰に責任を問うこともできない、そんな不幸な事故であった。
――場面が転換する。
親友の死を目の当たりにした風香は、その場で気を失い、病院で目を覚ました。
家族ぐるみの付き合いであったため、風香とその家族も葬儀に招かれていた。
しかし、あまりに無残な有様であったため、通夜で菜緖の死に顔が明かされることもなかった。
それ故に、風香の脳裏に未だに雪だるまを指差して笑った菜緖の顔が焼き付いたままだった。
きっと悪い夢に違いない、目が覚めればまたあの笑顔が待っているんだ……。
しかし、火葬の後のお骨上げ。
骨になった親友の姿を見て――ついにその死を実感し、風香は泣き崩れた。
親友の名を呼び、泣き喚き、耐えきれず嘔吐までして、再び気を失い――
数日眠り続けて目を覚ました風香は、全ての表情を失っていた。
心を完全に閉ざし、その中に大きな空洞を抱え、その空洞は闇に満たされ――それでも彼女は生きていた。
――しかし、それでも半身とも言える親友を失って生きていることに意味を見出せず、数年後に身を投げた。
――それが貴方の人生だったのですね。
風香は顔を上げた。
そこには女性の姿をした、だが明らかに違う、神々しい存在があった。
「どれほどの哀しみを負っていたとしても、自らの将来の可能性を閉ざしてしまった貴方の行為。
そしてその行為は新たな哀しみを生み、やがて不幸の連鎖を生み出します。
それが大きな罪であることを、貴方は知っていますか?」
「……わかってる。菜緖がそんなことを望んでいるはずがないってことも。だけど、わたしは耐えられなかった」
「ええ、貴方の心はそれほど強くは出来ていなかった」
女神はうなずいた。
「貴方の親友の死は非業のものです。そしてその結果として貴方が死を選んだことも情状酌量の余地があります。
ですから、貴方に提案しましょう」
「提案……?」
「非業の死を遂げた貴方の親友。彼女はわたしが管理する世界に転生しています」
「え……?」
全く想像していなかった話に、風香は思わず女神に目を合わせる。
「菜緖に会わせてくれるの?」
「無条件というわけにはいきません。
それに、既に彼女は転生を済ませていますから、前世の記憶は失われています。
もちろん、貴方のことも……」
「それでも……!」
風香は顔を歪めて懇願した。あの葬式の日以来、表情の出し方が分からなくなった彼女が久しぶりに表した表情だった。
「それでは条件を言いましょう。私の管理する世界は『異界の神々』の脅威に晒されています」
「異界の神々……?」
「我々創造神は、本来は作り出した世界に直接関与することはルール違反です。しかし世界の次元を超えてやってくる脅威ともなれば対処しないわけにはいきません。
しかし、我々創造神が直接地上に降臨することは、よほど切迫した事態にならなければ許されないのです。
……貴方に特別な力を与えます。その力で異界の神々と戦い、この世界を救って欲しいのです」
「やるよ」
風香は真っ直ぐに女神の眼を見て、そう告げた。
「即答ですか。まだ細かいことは何も告げていないというのに」
「だってわたしは死んでいる。もう何も失うものなんてありはしない」
「……そうですか。話を続けましょう。貴方は、貴方の親友が住む街に生まれ変わります。
しかし、世界の理に従い、元の世界の記憶は全て失われます。もしかしたら、その親友と出会うことすらないかもしれません」
「……」
「そして、その戦いは決して楽なものではありません。この世界は、元々貴方がいた世界とは比較にならないくらい厳しい世界です。
再び命を落とし、その肉体までも失われた場合、今度こそ如何なる方法でも貴方を救済することはできません」
「それでも……今度こそ菜緖を守れるなら、わたしは……!」
強く拳を握りしめる。その拳が、決意の固さを物語っていた。
「……わかりました。これで私と貴方の契約は成りました」
女神は風香に手をかざした。風香の周囲に光が輝き、やがて身体に染み渡っていった。
「貴方に私の力を与えました。しかし決して無敵の祝福ではありません。その命、大事にするのですよ」
そういって風香の身体の光が強まり、やがて視界をも飲み込んだ。
「……彼女と同じ歳にするのは、せめてもの餞別ということにしましょう。健闘を期待していますよ――」
――かくして、教会近くの裏路地で、記憶喪失の少女"フウカ"はこの世界に受肉したのであった。
* * *
「……これがわたしの過去の全て」
万華鏡から眼を離したフウカは、自らが取り戻した記憶の全てを仲間に語っていた。
「あの男が言ったとおり、わたしの失われた記憶は心の闇そのものだったんだ」
「……あたしが、フウカさんの前で……」
ナオが絶句していた。自分がこのような運命で生まれていたなんて、想像もしていなかったのだ。
「貴方が持っていた聖属性の適性も、妙に高い身体能力も、全てその創造神……様?の思し召しだったということね」
「その髪の色もその証と。ある意味、本当の『聖女様』だったってことだな」
ユマとアキが納得したように語った。
フウカの髪の色は、一切の色彩を含まない純粋な黒髪である。
「だよなー。こんな真っ黒の髪なんて見たことなかったし」
「……姉さん、僕の髪を弄らないで」
カナヤの濃緑の髪を触りながら、マナカが言った。
「元々は菜緖もわたしと同じ髪の色だったんだ。だけどこの世界に転生して少し色が変わっちゃったみたいだね」
「今は紫色って感じよね。私より大分色が暗いけど」
同じ紫髪のユマが自分の髪と比較しながら語る。
「……フウカさん。過去のあたしのこと、思い出して辛いですか?」
ナオが俯きながら呟く。
「……大丈夫だよ。そもそも、転生してるんだから厳密にはあっちの菜緖とこっちのナオは別人なんだ。
ナオはこっちの世界で生まれ育ち、そしてわたしと出会い、またこうやって親友になれた。
記憶を取り戻して、その上でちゃんと割り切れているよ。それに――」
「それに?」
フウカがナオに目を合わせ、はっきりと言った。
「わたしはラガーナを救って、それからの冒険でも……今日までずっとナオを守ってこられた。あの時のわたしの願いは、記憶を失ってもちゃんと果たされていたんだ。
それはこれからも変わらない。わたしはナオを守るし、世界に危機が訪れれば戦う。そう決めている」
「……よかったです。フウカさんがいつも通りで……」
ナオは耐えられなくなったのか、涙を浮かべてフウカに抱きついた。
その頭を撫でながら、フウカは仲間たちに言った。
「改めて訊くけど、わたしはこういう人間だ。
決して生まれながらの聖女ではないし、闇も抱えている普通の人間だ。
それでも、今まで通りに、仲間として認めてくれる?」
フウカが仲間たちに問うた。
皆が顔を合わせ、当たり前だと言わんばかりにうなずいた。
「なにを今更。元々はそうだったけど、今のアタシたちはアンタが聖女様だから付いてきてるんじゃないんだよ」
「僕もだよ。みんなとの冒険は楽しいからね」
「そうそう、俺たちだって好きで付いてきてるんだ」
「今更気にすることなんてないのよ。ねえ」
皆が口々に語った。そしてナオがフウカの胸元から顔を上げ、フウカの大好きな満面の笑みでこう言った。
「大好きですよ、フウカさん。今までも、これからも――」
「……ありがとう。みんな」
もしひとりだったなら、いびつで傷を負った不完全な心は哀しみのまま、心の闇に飲み込まれていただろう。
そうやって、この世界でもきっと、自分は泡のように消えていたに違いない。
ここに居る仲間たちも、愛情を注いでくれた教会の神父も、そして世界を超えて再び巡り会った親友も――
この世界で出会った皆が、自分に救いを与え、心に光を照らしてくれたのだ。
「さあ、街に戻ろう。次の冒険がわたしたちを待っている!」
――そうやって街に戻ったフウカたちは、新たなダンジョン「ヴァルハラの塔」出現の報を聞く。
今までもそうしてきたように、仲間たちとの結束の力でどんな難関でも乗り越えていくことができるだろう。
フウカたちの冒険は、まだまだ終わらない。
反省会
ということでひとまず表ダンジョンクリアまで辿り着きました。
上記の茶番で元々の「泡いっぱいの日々を」の内容をかなり歪曲しており、作者様には大変申し訳ない限りです。
実質的に『直下の戦線』の番外編のような感じになりました。フウカの種族を「半神」にしていた理由はこれでして、当初から決めていたにもかかわらず明かすタイミングがありませんでした。
種族の一覧に「創造神」があった時点ですぐにピンときましたね。
まさか本作の地下5,6,7階のストーリーが「心の闇」「失われた記憶」「背負った原罪」なんてテーマになっているとは当然つゆとも知らず、どうしようか頭を抱えた結果、以前語り損ねたフウカの過去について語るということにしました。
元々考えていた設定から大きく変えることなく「泡いっぱいの日々を」のストーリーに収まってくれたので書いている側も驚きでした。凄い偶然。
本来のエピローグはこんな感じでした。
「滅亡雷神」の一行がここまで辿り着いていたらまんま処刑された罪人でフレーバー的にも完璧でしたが、彼らは闇に消え去ったのでしょうがない。
「善」PTのロールプレイをこのストーリーに当てはめるための辻褄合わせを考えるのに大変に難儀し、結果上記のフウカの記憶と結びつけて長~い茶番が生まれるというのが裏事情でした。
クリアしてから実際の記事更新までおよそ2日も掛けるハメに……。
正直プレイ記録より茶番の方が長くなってしまった関係でかなり人を選ぶ内容になりました。流石に今後ここまで極端な記事はないと思いたい(『直下の戦線』は作者様のご支持がありましたが)。
さて、裏ダンジョン「ヴァルハラの塔」ですが、スタートから相当狂ったインフレが発生しており、具体的にはさっき述べたラスボスより強い雑魚がゴロゴロ出てくる大惨事です。先に進めるようになるには相当な時間が掛かりそうです。
何の冗談も抜きでワンターン全滅とか起こる関係でノーリセットとかマジで不可能なのでそのあたりも妥協した内容になると思いますが、そのあたりはご了承ください。
それでは、また次回の記事にて。